鉄道員(ぽっぽ屋)
(浅田次郎)
本あれこれ
言わずと知れた、直木賞受賞作品.
この物語で“鉄道員=ポッポ屋”と呼ぶのを初めて知った.
(最近、浅田さんの小説にしては珍しくその漫画本が出た
 ので、それも読んで見たが、良く描けていた).
映画化された時は、高倉健が、主役の“乙松”を演じて
好評だった.
ストイックな健さんの演ずる乙松は、
ぴったりの”はまり役”だったと思う.


物語は、廃線間近い、北海道のさびれたローカル線の
終点、幌舞駅.
国鉄マンとして、定年間近い駅長の乙松が、仕事への
責任から、生まれたばかりの
子供や妻の死に目にも会えず、
ただひたすら、もくもくと駅長として
勤めて行く姿が
描かれている.

文庫本の裏表紙には.....
“娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けてた“と、ある.
死んだ娘が、小さい頃から女学生に育つまでの姿を乙松に見せに現れる姿もまたいい.
現実的に言えば“幽霊”なんだろうが、女学生姿の娘に
それを聞かれて“どこの世の中に、
自分の娘をおっかながる親が居るもんかね”と
言わせる所がまたまた、いい.
信号旗を持ったまま雪に埋もれたホーム上で死んで行く乙松の最期には泣かされる.

この文庫本には、この外に、

       
ラブレタ−  ・悪魔  ・角筈にて ・伽羅  ・うらぼんえ
          
ろくでなしのサンタ ・オリオン座からの招待状

が収録されているが、私はこの中でも特に「角筈にて」が好きだ.
家が新宿に近いせいか、角筈=歌舞伎町 という地名にも、なんだか親近感がある.

主人公の貫井は、幼い頃、父に捨てられ(捨てられた場所が、この角筈のバス停)、
その事がトラウマとなっている商社マンの部長.
大きなプロジェクトの失敗の責任を取らされて、遠くブラジルへ妻と共に飛ばされる.
その代わりに、3人の部下は栄転.
憤慨した3人が(自らの栄転に憤慨する所が
またいい)、どうしても空港まで見
送りに行くと言うのを押し止め(飛ばされる上司を
見送りに行くというのは、サラリーマンにとっては勇気が要る!)、幼なじみで、
捨てられた後親子同然に育ててくれた叔父の家の娘だった妻と
二人、タクシ−で空港へ
向かう道....
花園神社の境内に、捨てられた時の父の姿(幻影だが)を見て、その父との語らいから
別れた後の真相を知る.既に父はこの世の人では無かったのだが.....
そこで、父に捨てられたという、長い間のトラウマが解ける所で、話は終わる.

浅田さんの小説らしく、この小説でも悪人は出てこない.
預けられた叔父さん夫婦と二人の子供(兄、妹).誰もが「捨てられた貫井」を気遣い、
思いやりのある人達.そして、「自分達だけ出世して」と貫井を気遣う3人の部下.

思わず、ブラジルでの新生活の幸せを祈りたい、いい小説だと思った.

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