本あれこれ
(C・S スコット著)
           題名からして、戦記小説という印象を与えるが、内容は第二次世界
          大戦で、連合軍側輸送船団37隻の護衛艦隊を指揮する、駆逐艦
          キーリング艦長クラウスを中心に、壮絶な戦闘の中でのクラウスの
          心の内面と指揮官としての苦悩、部下への想いを描いた、異色の
          海戦小説である。
          37隻の輸送船団は、油、爆薬、日常品などを満載した国籍も船籍も
          ばらばらの混成船団で、クラウスが指揮する護衛艦隊も4隻の混成
          部隊。輸送船団2千名、護衛艦隊8百名の命と、物資の窮乏した
          イギリスへ物資輸送という重要任務を帯びた指揮官クラウスは、
          両親の居ない不幸な少年時代を持つ海軍兵学校出身の中年の海軍中佐。
          海軍での生活しか味わった事の無い生っ粋の軍人であり、不幸な結婚
生活を味わった末に、志願して北大西洋勤務になった。当時の北大西洋は、ドイツの制海
権下にあり、ドイツ海軍長官だったデーニッツの案出した、複数の潜水艦(Uボート)に
よる輸送船団壊滅作戦にさらされていた。物語は、クラウスが艦長室から、防寒具を着ける
間もなく艦橋に呼び出された時から始まる。
それからの3日間、クラウスは、自分自身に課した海軍軍人としての規律から、艦橋を一歩も
離れないまま、護衛艦隊指揮官としての闘いを続ける。荒れ狂う北大西洋の荒天の中で、
若い部下を指揮しつつ、絶え間なく襲って来るUボートに、輸送船団の周囲を牧羊犬の如く
走り回りながら、ソナーでUボートの位置を確かめ、絶え間なく爆雷攻撃を繰り返し、その
激しい戦いの中で、交替する部下士官がきちんと休息を取れているかの心配、統率する他国の
艦長への命令の言葉遣いや、燃料、爆雷消費量への気遣い、その間にフッと眠気に引込まれて
は、好物のコーヒーへの渇望に悩む人間性も見せる.3日間の闘いで潜水艦3隻を爆沈し、
自身は船団の7隻と護衛艦一隻を失いながら、迎えに来た護衛艦隊と交替して艦長室のベッド
に戻って眠り込んだ所で物語は終わる。

作者のC・S・フォレスターは寒風吹きすさぶ北大西洋での、壮絶な戦闘を、あたかも読者が
艦橋に居るかの如くリアルに描写しながら、主人公であるクラウスの、人間的な強さ、弱さを
実に生々しく描き出している。
この本に出会ったのは、私が川崎にある、会社のサービスセンタ―長に赴任した時。当時80名
ものエンジニアを抱えた、国内最大のセンターで、20才台の若者が大半を占め、職場は一日中
、客先からのコールや営業との対応で戦争状態だっただけに、この本を読んで、随分、勇気付け
られた想い出がある。

何度も読み返したから、今ではぼろぼろになり、黄色く変色してしまっているが、どうしても
捨てられない一冊である。
駆逐艦キーリング
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