(加藤文太郎/松濤明)
本あれこれ
単独行/風雪のビバーク
この本は、先人の偉業を現在に残す、名著であると思う.

■単独行(加藤文太郎)
加藤文太郎さんは、大正〜昭和にかけ、黎明期の北アルプス〜
南アルプスを中心に活躍され、特に題名の様に”単独行者”として
有名な方である.
ここには、自らの山行記録を忠実に載せられているが、山行記録も
さることながら、精神的な悩みが書かれていて興味深かった.
単独行者といえば、強靭な体力と気力を持つスーパーマンの様な
山男をイメージするが、”山へ登るAのくるしみ”の項では、超人的な
単独山行の記録からは想像できない、一面を持っておられた.
そこでは、自らを、”実は可哀想なほど気の弱い男なのです”と
述べておられるし、また、1月の剣沢の項では、ガイド連れの
パーティに気兼ねした思いが、綿々と書かれている.
装備も食料も貧弱な時代に、現在でも困難な、多くの冬の山行を
重ねた偉大な単独行者だった事がうかがえる.

■風雪のビバーク(松濤明
松濤明さんは、昭和10年〜20年代を中心に、当時先鋭的な山岳会
だった「登歩渓流会」に属されて、特に谷川岳に多くの登攀記録を
残されている.
山に対する真摯な態度は、加藤さんとも共通するが、加藤さんとの
大きな違いは、山岳会に属していた事から、山への行き方が、山仲間
を通して描かれている所にある様な気がする.
冬の数々の岩壁に記録を残されているが、最後に向かった冬の北鎌尾根で発見された日記帖の.....
     サイゴマデ タタカウモイノチ 友ノ辺ニ スツルモイノチ 共ニイク
は、余りにも有名な最後の言葉である.
「登歩渓流会」が、全力を投入して捜索された内容も含まれ、その懇切丁寧な記録が興味深い..


お二人とも、冬の北鎌尾根で遭難死された.

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