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06.02.06
江戸から明治へと移り変わる混乱期の、武士の身のふり様が
短編6話に収められている.

        ・椿寺まで
        ・函館証文
        ・西を向く侍
        ・遠い砲声
        ・柘榴坂の足音
        ・五郎治殿御始末

表題となった「五郎治殿御始末」は.....

曽祖父が孫に語りかける形で、自分が子供の頃、その祖父と
一緒に生き抜いた明治維新と、祖父の生き様を伝える...

祖父は”桑名藩/11万石/松平越中守”の家来.
廃藩置県に伴う武士のリストラで、命により”リストラする側”に
なった祖父がその辛い役目を終え、さらに家財全てを投げ打って
後始末をした後、遠い親戚に一人残った孫を預けに行く旅に出る.
しかし、その旅は武士として自分は最後に自害して果てる旅.
危い所で、昔面倒を見た商家の親子に助けられ生き残るが、
孫の成長を見ないまま、自分は”西南の役”で望みどおり、
”身の始末”をつける.

時代が変わっても、自分に正直に生き武士の誇りを捨てなかった
男の生き様がよく描かれている作品だと思う.


■ブックカバ−には、

男の始末とは、そういうものでなければならぬ.
決して逃げず、後戻りもせず、能う限りの最善の方法で全ての
始末をつけねばならぬ.
幕末維新の激動期、自らの誇りをかけ、千年続いた武士の時代の
幕を引いた、侍たちの物語.

本の解説は、磯田道史さん(茨城大学助教授・日本近世史).
ここで、徳川幕府が敷いた”徳川(江戸)を守るための国内の防衛線”の話が、興味深い.
  ・西からの防御ライン :彦根〜桑名線(琵琶湖と伊勢湾に挟まれ、陸地が40Kmと狭い!)
  ・北    〃      :長岡〜磐城平線
”五郎治殿御始末”の舞台となった「桑名藩」は西の防衛線の重要拠点であり、代々、信頼の於ける
徳川譜代の大名か、一門の家を置いていたという.

これからすると、桑名藩だった”五郎治殿”は、武士の中の武士だった訳か....
浅田次郎著(中公文庫)
本あれこれ
五郎治殿御始末