05.12.06
これは、先に出た「蒼穹の昴」の続編....と、云われている.
しかし「蒼穹の昴」が清の大抒情詩的、歴史小説であるのに較べ、
「珍妃の井戸」はただ一点、「だれが珍妃を殺したか」に絞られて
物語が進行する.
いかにも浅田さんらしい意表を突く展開であると思う.

義和団運動と、それを口実にした日本を含む八ヶ国連合軍の
北京侵攻で、大混乱に陥った紫禁城が舞台.
時の皇帝、光緒皇帝に最も愛された”美しき珍妃”が、混乱の
最中、紫禁城の古井戸に投げ込まれて殺される.
その井戸は大人の腰がやっと入る位の大きさで、そこに頭から
投げ込まれると、深い井戸の底まで徐々に体が沈んで行って
やっと死を迎えるといった残忍な殺され方で.

物語は、だれが、どんな理由で珍妃を殺したのかを解明する為、
英国の提督+ドイツの大佐+日本の大学教授+ロシア銀行総裁
の4人が、芋づる式に関係者を訪ねて行く所から始まる.

しかし、事件の現場に居て、その真相を知っているはずの人達
(6人+米国特派員)は、夫々、全く異なった証言をする.
なぜ現場に居た人達の証言が異なるのか、この辺が一つの謎!.
(何度読み返しても、犯人が誰なのか洞察力の無い私にはさっぱり
 分からず!).

しかし犯人が誰であったかは別として、八ヶ国連合軍の侵略が
背景にあって珍妃が殺された事は事実で、浅田さんは最後に、
珍妃自らの口からそれを語らせている.
    「なぜ、何もしない平和な国を侵略したのか」
浅田さんは、その不条理をこの小説で訴えたかったのではないかとも思う.

読み進む内、いつの間にか自分が狂乱の紫禁城を走り回っている様な気分になるのは、
いつもながら浅田さんの描写力の凄さである.
浅田次郎著(講談社文庫)
本あれこれ
珍妃(ちんぴ)の井戸
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