ちくわ

ミケ子

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猫のこと
ちくわ,
君は健気な猫だった.

立派な毛並みを持つトラ猫の「ヘチマ」と、子育てのうまいしっかり者の三毛猫「スズ子」の
間に生まれた君は、生まれながらの「野良猫」と言う肩書きを背負いながら、ヘチマの血統を
受け継いだ毛並みの良さを併せ持って、家へ来た.
遠くで、両親が見送っていた.

君は、家に来てから色々な問題を起こした.

体の芯まで濡れそぼってブルブル震えながら、君の好きな犬用キャリングケースに寝た時は、
何度乾いた布で体を拭いてやっても水気が取れず、それでも生命力の強い君は、三日目にはもう、
ミケ子と並んで、固いキャットフードを貪り食っていた.
体中に「ネズミ捕り用トリモチ紙」をくっつけて帰って来た時も、君はご主人様の迷惑を微塵も
感じない屈託の無さで、普段通り、体を摺り付けて来た.
夕方たばこを買いに出ると、ニャアニャアと街中に響く様な大声で何処までも追いかけて来たし、
残業で夜遅く帰ると、何時も家の前の道路に寝そべって、待っていた.

そんな君が、歯槽膿漏らしきものをわずらって好きなキャットフードも食べられなくなり、
見る見る内に痩せてきたのは2月位からだったろうか.
君が遠くから歩いて来ると、痩せて、一枚の板の様に見えた.
それでも君は、動物病院へ連れて行こうと抱き上げると、野良猫の意地をみせて暴れ、絶対に
連れて行かせなかった.
そして、最後の頃には、苦しいのか横になれず、うつ伏せになって寝床の中から降る雪を見ていた.
まるで映画のラストシーンの様に、降り積もった雪道に一条の足跡を残して歩いて行った、君の
後ろ姿が忘れられない.
野良猫でありながら、野良猫らしい姿を一度として見せなかった君は、実に、猫の中の猫だった.

どこかで生きていて、初めて来た時と同じ様に、勝手にひざの上に乗ってくる日が来るのを
待っているからね...
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