サービス員の時代
鉄の”お釜”
知多にある某鉄屋さんには、Y5のサービスでよく出張した.

出張といっても遠いから、殆ど、この地域を守備している現地のサービス
ステーションまで行き、エンジニアと落ち合って、そこのサービス車で
入門する(ここの所長さんは、山岳部の大先輩の故O谷さんだったので
大変良く面倒を見てもらった).

鉄屋さんだから、なにしろ構内が広く、歩いて行くなんて、とても無理.
余談だが、当時の鉄屋さんの守衛は、事の外、警備が厳しく、工具箱
の中のドライバ−1本まで調べられる(なんでも、警察出身の人達との
噂が立っていたほど!).
まるで、入国審査に近い厳重な入出門チェックに、お客様までピリピリ
していた.....

そこを通過して、Y5の納入されている計算機室までは、鉄屋さん特有の
無蓋車の通る線路をいくつか渡って行く(建屋の中まで引き込み線路が
通っている).
ここでは、入門証を取る時に教えられたきまりをきちんと守らないと「入門禁止」になってしまう.
重要なのは、踏切で一旦立ち止まって、右左を確認する時の「指差し呼称」.
「右ヨシ!、左ヨシ!」と、誰も居なくても声を出して指差し、確認してから渡る.
(これが癖になって、仲間はみんな、どこの会社へ行っても指差し呼称をする様になった).

さて、この鉄屋さんで、Y5がコントロールしていたのは、鉄板の「焼きなまし炉」.
厚い鉄板が、直径2mぐらいのコイル状に巻かれていて、それを3段ぐらい積み重ね、上から
茶筒のオバケみたいな加熱炉をクレーンで被せて数十時間も、特有の均熱パターンで焼く.
この様な炉が50基近く並んでおり、これら全てをY5で制御していた.
炉の並んだ建屋の片隅に計算機室とオペレータ室があり、窓ガラスを通して、炉が眺められる.
「焼き」が終了して、クレーンで炉が吊り上げられると、真っ赤に焼かれた鉄のコイルが目の前に現れる.
焼き具合に失敗すると、コイルの鉄板に大きな皺がよって、すぐ結果が出る.
窓からそれが見えるので、オペレータさんは、そんなコイルが出ると大騒ぎ.

ここで苦労したのは「ノイズ」.
アナログ制御 → デジタル制御に変わった結果、Y5のアナログ入力がノイズで誤差が出て、なかなか
解決しなかった.なにしろ±数%で制御しているため、えらく微妙な調整もさる事ながら、ノイズの多い
機器が現場にはゴロゴロしている.
アースの取り方を変えたり、最後には休止している炉の底にもぐってセンサーを調べたりと、結構苦労した.
休止しているとはいえ、屈んでもぐり込む頭の上は数百℃の炉なので、恐かった......

しかし、どうにか処置が終わり、炉が動いて天井のクレーンでお釜が吊上がって行き、真っ赤に焼けた
コイルが現れる時は、壮観!.

これを見たさに、立会いと称して待ってた事もあったが....
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