夏の剣合宿でM本と先発し、剣岳南壁を登ってから
三の窓へ行った.
2日分のビバーク装備と食料を背負って南壁を登った
ので、二人ともバテバテになり、途中は何処へも寄らず
それでも三の窓に下りる池ノ谷ガリ−は落石に注意して
下った.
三の窓コルには、所狭しとテントが張られ、幕営禁止と
いうのが嘘の様だ.石を積み直し、正面に池ノ谷、右側
に小窓王南壁が迫る場所を我々のビバークサイトと
する.二人とも、ツエルトを張るのにも体がだるくて、
のろのろと体を動かす.
明日はチンネを登るので、コルへ上がり、反対側の
三の窓雪渓を下って、チンネ中央チムニ−を見に行く.
雪の上にもテントが並んでいて賑やかだ.
ツエルトへ戻り、何もする事が無いので、登攀具を
整理したり、石の上に寝転んだりしてボケ−とする.
剣に入って2日目、黒部ダムの底から真砂沢までの
アルバイトの疲れがまだ残っている様だ.

三の窓の夕日

山の日記
乾燥食料の夕食はあっという間に終わり、二人で夕日を見るために、昼間の熱さがまだ残る、すぐ前の大岩に
はだしで登った.
周りがダイダイ色に染まり始める.
目の下には、既に日のかげった池ノ谷が暗く沈んでいて、その向うに富山平野がかすんで広がり、かすかに
富山湾の海岸線が大きく湾曲して、日本海は灰色をしている.鷹のくちばしに似た能登半島がはっきり見えた.
そして、その向うに日本海の水平線が大きな真っ赤な太陽を今にも飲み込もうとしていた.三の窓全体が、M本の
顔も、青色のツエルトも、小窓王南壁も紅色に染まり始めた.
気が付くと、周りのテントの住人が全部外へ出て、あるいは寝そべり、岩の上から足をぶらぶらして、じっと夕日を
眺めていた.みんなの顔も夕日に染まっている.
誰一人として話をするものも無く、ただじっと日本海に沈もうとする夕日を見つめていた.
何年と山へ来ながら、こんなに素晴らしい夕日を見るのは初めてだった.

日本海が真っ赤に染まり、しだいしだいに太陽が沈んでいくと、気のせいか寒くなって来た.
夕日の沈んだ後に、雲海が広がり始めると、今まで静かだった周りのテントが、急に騒がしくなり、食器の音や、
ボーボーというホエーブスの音が聞こえ始める.
誰が上げるのか、花火が、時々南壁の方へ飛び、バーンと言う音が壁に響いた.

この夕日を見るため、もう一度ここへ来よう!.
明日のチンネの登攀の事も忘れ、瞼の裏にさっきの夕日を思い浮かべながら、そう思った.
三の窓の夕日
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