中央線の車窓からも見える、鋸の様にギザギザな山容
を持つ鋸岳は、甲斐駒に連なっているためか余り目立
たないが、ぜひ登りたいと思っていた.
夏山合宿が終了した翌週、4名で登った.
メンバー:I崎さん、N田さん、U松、F井
■8月12日(晴)伊那市〜戸台
伊那北まで急行”赤石号”で来て降りようとしたら、
列車がホームからはみだしており下は線路.ザック
を背負ってドアのアブミに乗り枕木に着くと、頭の上
から声がする.
赤石号の運転手が、窓から顔を出し「どこまでへ
行くの?」と聞いている.「戸台です」と答えると、
伊那市まで乗って行けと言う.
また、大汗かいて列車に戻る.乗客が笑っていた.
伊那市からバスで高遠まで行き、タクシ−で戸台へ.
少し歩いた道端にゴロ寝する.
■8月13日(晴)戸台〜角兵衛沢〜第一高点〜第二高点
              〜中の川乗っ越〜熊穴沢〜丹渓山荘

戸台川を歩いて行くと、左側に鋸岳が見えてくる.
角兵衛沢の入口には赤いプレートが打ってあったが、
見つけにくかった.ここで、赤河原付近を散策のI崎さん
と別れ、N田、U松、F井の3人で鋸岳への第一歩を
踏み出した.

鋸岳

山の日記
鋸岳 小ギャップの下降
角兵衛沢は、始めは何の変哲も無い山道だが、2ピッチ目で、広大なガレ場の末端に出る.鋸岳特有の
ガレ場で、一歩進むと確実に1mは崩れ落ちる.
左手に巨大なスフィンクス岩を見て、なおも角兵衛沢のコルを目指し登り続ける.
コルに着いた時は、三人とも完全にバテていた.コルから20分程右に上がると、鋸岳の第一高点.
岩片に埋まった狭い頂上には、一本の標識がポツンと立っているだけ.しばらく前からガスが濃くなり始め、
第二高点は意外に近く見える.
山頂から岩場を少し下ると、小ギャップに出た.下降点が良く分からないので、適当に決めて、枯れた細い
木にザイルを掛け、1回のアップザイレンでギャップの底に降りた.
三人が集まった所で、風穴に向かう.
名前の通り、岩に人一人少しかがむと通れる程の穴が開いている.稜線は風穴の上を通っているが、
ルートは風穴の横を登る.ボロボロの岩をだましながら稜線に顔を出した途端、目の前に”タカネオトシバナ”
が咲いていた.こんな所にひどい奴だと、後ろの二人に声をかけ通過.
細い稜線を伝って中岳を越すと、大ギャップに出た.ダブルザイルでも少し足りない程切れ落ちている.
ここでも、下降用ハーケンを打つが、どれも効いてくれず、苦労して木を探す.古い捨て縄の掛かった木が
あったので、これを使ってアップザイレンした.

ますます濃くなって来たガスを気にしながらザイルを回収し、30分程踏み跡を頼りに草を掴んで登ると、
第二高点の肩に出られた.稜線を戻る様に登ると、錆びた大きなホコの立つ第二高点だった.
やっと念願の鋸岳に登れた喜びもつかの間、雷が鳴り出す.
山頂のホコは鉄だから、雷も落ち易いだろうと、三人共、必死になって中の川乗っ越しへ駆け下りた.
乗っ越しまではずっとガレており、左側は赤茶けた崩壊壁が続く.
中の川乗っ越しからは、右の熊穴沢に下る.
これまた、角兵衛沢を2倍にした程の大ガレで、この頃、三人の頭の中には水の事しか無かった.
靴の底がヤスリをかけた様に磨り減る.
戸台川にヨタヨタして下りつき、I崎さんと合流して丹渓山荘前にツエルトをかぶった.

■8月14日(小雨)丹渓山荘〜戸台〜帰京
朝方冷たいので目を覚ましたら雨が降っていた.傘をさして又寝る.
体が濡れてきたので起きて、そのまま戸台へ下った.

ガレ場に痛めつけられたが、鋸岳は岩場の稜線が続くいい山だった.

:3年後の夏山合宿では、M月さん、T樫さんと寝木小屋沢から横岳峠へ上がり、第一高点、第二高点
  と縦走して甲斐駒6合目の石室に泊り、翌日、甲斐駒を越えて黒戸尾根5合目に設置されたベースへ
  入った.この時も第二高点で雷に遭い、余程雷と縁のある山である.
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66.8.12