北鎌尾根(春)
山の日記
槍ヶ岳 山頂にて
春の北鎌は、厳しい所でした.
4月の記録です.
槍へのバリエーションルートとして一度は登りたい、
それも積雪期にとかねがね思っていたが、部の
春山合宿としてT樫さん、Hさんと3人で行く事に
なった.過去の文献を調べ約1ケ月かけてルート図
作成、装備、食料計画を立てた.
北鎌は、P1からP15までのピークを全て越して
行かなければならず一度取り付くとエスケープルート
は無い.装備は極端に減らしてツエルトと登攀具のみ、
食料は全て乾燥食料.注意したにもかかわらず、
一人15Kgを越えてしまった.
■4月25日(曇)八王子〜大町
八王子から特急に乗り松本まで.午後10時頃、大町に着き、酔っ払いのオヤジと駅のベンチに寝る.

■4月26日(曇→雨)大町〜七倉〜湯俣〜千天出合い〜第三吊橋〜P2
タクシ−で七倉まで入り、10Kmの軌道歩きに入る.枕木の上を3Km歩いて10分休む単調なペース.
濁沢小屋を過ぎ、第五調整池で大休止.
時々雪が出始め、ダムの取水口が見え始めると湯俣.
昼食だけ持って吊橋を渡り、露天風呂は手だけで我慢する.
ダムの取水口から最初の吊橋を渡り、高瀬川左岸の、所々壊れた桟道を行く.
かなりの積雪でラッセルを始める.
湯俣から1時間半で道が切れたが、崖に打ち込まれた太い鉄の棒を使ってザイルトラバースする.
第二吊橋を渡ってすぐ千天の出合い.
吊橋は完全に壊れており、対岸へ渡る鉄のワイヤ−と滑車を使って、人とザックを別々に渡す
ここから北鎌が始まる.
P2への側稜はひどく急だったが、冬のフイックスに助けられて這い上がりP2の頂上でビバーク.

■4月27日(ミゾレ→吹雪)P2〜天狗の腰掛
5時にビバーク地を離れ、すぐ雪稜が始まるのでアイゼンを着ける.
P3、P4はどれがどれやら分からずに通過、問題のP5に着く.ザックを置いて偵察.
左へ80mトラバースし、P5支稜の浅いルンゼを登る事にする.
ザイルを出し、ズタズタに切れてクレパスの開いている雪壁にフイックス.
ここは2回フイックスして、さらにルンゼを40m直上、左斜上トラバースでP5頂上へ.
ここだけで1時間掛かった.
P6も細いバンドの右斜上トラバースに、40m一杯、ザイルをフイックスする.雨が降ってきた.
この辺はガスで周りが見えず、ピークを数え間違うのでは無いかと気が気でない.
計画では、今日中に独標の基部まで行かなくてはならない.
P7から北鎌沢コルへ下ると、ここから2時間以上の登りの猛烈なラッセルが始まり、三人ともクタクタに
なって、三方を岩に囲まれた台地に出た.二人に待って貰い偵察.
その先は雪稜が続いている様だが、吹雪で目も開けていられない状態なので、この岩の台地で
ビバークする事に決定.
残置ハーケンにツエルトをとめてもぐり込むと、ホッとした.まだ12時.
夕方、急にツエルトの中が明るくなったので外に出ると、目の前に独標が黒々と聳えていた.

■4月28日(快晴)天狗の腰掛〜槍〜肩の小屋
ビバークした所は天狗の腰掛だった.青空が広がり、最高のアタック日より.
ツエルトを畳んでビバーク地を離れ、独標に取り付く.千丈沢側のトラバースルートは青氷で、
アイゼンの歯が全く立たず、天上沢側の急なルンゼを10m程直上して這い松にビレー.
この附近から前穂高の北尾根がよく見え出した.
そこから支稜を登ると、黒々とした槍が天を突いていた
やっと独標を越えられたが、ここを過ぎるともう逃げ場は無い.
独標からは6つのピークを上下する.適当に、なるべく岩場を選んで行く.
三人共バテバテで、1ピーク毎に休みながら行くとやっとの事で北鎌平の雪の台地に出た.
疲れきって、雪の上に寝そべりながら、見上げる様な槍の登攀ルートを検討
何処を登ればいいんじゃ?と思うほど急な岩稜だったが、結局、アンザイレンもせず稜線伝いに
槍の直下まで行き、槍の穂先を右にぐるりとトラバース、最後はクラックにアイゼンをガリガリ
押し込みながら、頂上の鉄の槍に出た!.頂上着、10時半、三人でガッチリ握手.
先行者も居ない我々だけの北鎌尾根は、取り付いてから3日で終った.
頂上に2時間居て快晴の北アルプスを堪能し、眼下に見える赤い屋根の肩の小屋へ下降
今夜は久し振りに、開いたばかりの肩の小屋に泊まる.
日光浴しながら濡れた装備を全部出し干していたら荷上げのヘリコプタ−が来たので、
小屋への物資搬入を手伝った.
パイロットの顔が、別世界の人の様に見える.
夕飯時、手伝ってくれたお礼だと運んで来たばかりのビールを1缶余計に頂いた.

■4月29日(快晴)肩の小屋〜横尾
小屋の前から、早朝の槍沢を慎重に下り、途中から尻セードをしたらズボンが擦り切れて
しまった.槍沢小屋の下で、部のT田さん、N村さんと会い、横尾で一緒に泊まる約束をする.
横尾で今日中に東京へ帰るHさんと別れ、T樫さんは読書、自分はズボンの修理に精を出した.

■4月30日(雨)横尾〜上高地〜帰京
土砂降りの雨の中、1ピッチで上高地へ.松本からは、また特急で帰京した.

積雪期の北鎌はさすがに厳しかったが、目一杯やれて充実した山行だった.

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下の画像は、「カシミール」で作製した
高瀬ダム上空6000mからの初夏の
北鎌尾根/作成:Y田
06.04.07
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