山岳部の計画で万太郎山へ行った時、吾作新道から、
初めて足拍子岳を見た
丁度、槍の様に鋭い頂上を持った山で、名前が分からず
同行のK木が”越後駒”と名付けた.その山容が気に入って
どうしても登りたかったが、ガイドブックが見つからず、夏は
藪でとても登れたものではなさそうだった.
1年が過ぎ、T村さんが同行してくれるというので、万太郎で
撮った写真と地図で斜度を出し、細部まで計画を練り上げた.
深雪のラッセルを覚悟し、スキーのストックと、ビバークの
装備一式、登攀具を用意して出発した.

前夜は土樽山の家泊り.朝起きてみると、ガスっているが、
雪は降っていない.山の家から一度駅に戻り、林道に出る.
車が通っているのでラッセルは無かったが、清水トンネル
入り口のガードから蓬峠への道に入ると、もう腰までの
ラッセルになった.写真で決めていた最初のピークP1への
支稜は、背丈程の潅木が密集した急な沢で、殆んど胸まで
もぐる.T村さんと、15分交代でラッセルして行く.

冬の足拍子岳

山の日記
冬の足拍子岳(1月)
ピラミダルな山容を持つ足拍子岳は、小さくても
登りがいのある山でした.
二人共、雪だるまになって、潅木をかき分けたり、掴んだりして、P1の太い木に這い登り、大休止.
風が出て来て、青空が見える.
正面に小山の様な吹き溜まりのコブを持ったP2の稜線が現れたので、コブの間を狙ってラッセルし、稜線上を
辿りP2へ.ここが最後のピークでズーと彼方にそびえるのが頂上だと思っていた.
P2からリッジとなり、吹き溜まりは2mを越す.
リッジを過ぎると、広大な雪原が稜線まで続いている.雪崩に注意しながら、最大傾斜線を辿って稜線に
出る.所々、きのこ雪と雪庇が複雑に張り出して、頂上らしきピークは頭の上だ.ストックをデポして登攀の準備
をする.T村さんTOPで登る始めると、頭の上から崩した雪がドンドン落ちてきて、すぐ雪まみれになる.ザイルが
一杯に伸びた所でビレーをはずし、登りだす.木の根元ではゴボッと首まで落ちたり、ザイルを両手で握って
ゴボーで上がったりしながら、T村さんの所に着き、ツルベ式にTOPを交代する.きのこ雪をピッケルで崩し
ながら、胸つく雪壁を登り続ける.40mザイル、4ピッチで、頂上へ上がったT村さんが何か怒鳴っているので
”やっと登れたか”と近くまで行くと、「朝帰りになっていいか−!」と言っている様だ.何の事かと這い登ると、
ズッ−と先に、白いピラミッドの様な、本当の足拍子岳の頂上がそびえていた!(今いる所は、P3にあたる).
ここまで来て、頂上を目前に戻る気は無い.
右側の張り出した雪庇に注意しながら太腿までのラッセルを始める.頂上のピラミッド下で一息入れると、見上
げる真っ白な足拍子の頂上には、大きな雪庇が出ていた.
「亀裂が出来たら教えてくれよ」と、T村さんが登り始める.傾斜が急でT村さんの輪カンが全部見える.
ここは、ビレー点が無くザイルが使えないし、一緒に登ると雪崩た時二人とも流されるので間を空けないと、危な
い場所だった.T村さんは、長い時間を掛けて頂上付近の雪庇を乗っ越し「おーい、F井の頂上だぞ−、先に行く
か−」と、言ってくれた.ここまで難しい所は、ほとんどT村さんがやってくれた.先に行って貰う.
雪庇の向うにT村さんが消えた所で、ステップを崩さない様、バランスに気を付けながら一歩一歩登った.頂上の
雪庇は意外に丸く張り出しており、縦に割る様な形で切り崩してあって、その向うにT村さんが雪まみれの姿で
待っていてくれた.やっと1年間待ち望んでいた、足拍子岳の頂上に着いた.手袋のまま、固い握手.
雲ひとつ無い、谷川では珍しい快晴.今朝出てきた土樽山の家や、スキー場が良く見える.
頂上は2〜3mの広さで、ここから荒沢山への稜線は両側共スッパリと切れ落ちたリッジが続いている.
記念写真を撮り頂上には30分居ただけで登りのトレ−ス通り下山.頂上の雪壁は後ろ向きになって下る.
あとは、登りのトレースがあるのでP3まで一気に下り、P3からも殆んど休まずP1の平坦な雪原で初めてザック
を下ろして座り込んだ.日が少し陰って来た.登攀具をしまい食料を全部出して平らげる.
P1からは、登りのラッセルが嘘の様に、楽に林道に下りられた.
土樽駅のホームから足拍子を見上げると、頂上の白いピラミッドに一条のラッセル跡が良く見え、あそこを登って
来たんだなぁと、感慨深かった.

その後、2回、別のメンバ−と冬の足拍子岳に行った.一度などは、P2に雪洞を掘って泊まり、2日かけて登った
が、大雪に阻まれて登頂を断念した.足拍子は小さいが、厳しさのあるいい山である.
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66.1.30