3月の八ヶ岳山行で、赤岳へ行く事になった.
西壁のメインリッジへは、M月さんとF井で行く.
このリッジは、赤岳北峰から一気に赤岳沢へ落ちている
2本のルンゼに挟まれた稜で、第一、第二の2つの岩峰を
持つ、赤岳では比較的ポピュラ−なルートである.
メンバ−は、M月さん、T村さん、T樫さん、S島、F井の5名.
■3月18日(雨)
昨夜は、3月というのに雨が降っていて、全員、美濃戸小屋
に泊まった.今日も朝から雨.小屋でゴロゴロしていたら、
昼から小降りになったので、赤岳鉱泉−行者小屋の予定で
出発.北沢の広い道は、雪の上に小川が流れていて始末が
悪い.赤岳鉱泉から中山峠を越えて、行者小屋着.
S島は、小屋前に作ったイグル−に泊まる.
■3月19日(快晴)
文三郎道を途中まで登り、西壁に見当をつけて左の沢へ
下降.大きなチムニ−の下で登攀具を付ける.

赤岳西壁メインリッジ

山の日記
赤岳西壁メインリッジ 全景
初めて、氷壁の下降を経験した記録です.
M月さんが、こんな所でF井ジッフェルの上、キジ打ち!.スッキリした所で、チムニ−に取り付く.
ところが、このチムニ−、2mも登ると上部がハングしており、どうしても乗っ越せない.
2人して、ああだこうだとやっている内に、時間が経過.諦めて、チムニ−下を左にトラバースし、
真っ白に雪をかぶったフェースへ移動する.所々、黒い岩と短い潅木が白く氷結した雪の壁.
ピッケルで岩に張り付いている雪を掻き出し、ホールドを刻みながらの登攀.M月さんは、アイゼンをガチガチ
鳴らし、途中にハーケンを2本打って上部に上がって行った(ここの長いジッフェルで、自分の右手の指先が全部、
凍傷にやられてしまった!).しばらくしてコールが掛かったので登り出す.壁は殆んど氷結しており、ホールド、
ステップを切り直しながら直上し、途中の潅木から左にトラバースすると、左から斜上するルンゼを目の前にした、
足幅ぐらいのバンドに着いた.斜上ルンゼには、ラッセル跡があり、二人してあそこへ来れば良かったのかと
残念だった。TOPを代わって、急なルンゼにアイゼンを効かし、左に斜上トラバース、ピッケルを両手で握って
ピックを差し込みながら直上すると、40m一杯で、今朝登れなかったチムニ−の上に出た.
ここまでで、既に2時間経っている.いま居るところは、第一岩峰のコルで上の方に第二岩峰が見える.
赤岳頂上で、別ルートを登っているT村パーティと合流の予定が厳しくなって来たが、第二岩峰まで行けば、
何とかなるだろうと、先を急ぐ.10m位の岩場を1ピッチ、ダイレクトに登る.途中、ロックハーケンが効かず、
アイスハーケンを岩に打つ.ここを抜けると本来のリッジ状になってきて、少し傾斜が落ち始めたが、依然として
昨日の雨のせいか、テカテカの青氷.一つ一つカッテングしていくため、気が抜けない.
3ピッチ、殆んどザイル一杯使って、やっと第二岩峰へのナイフリッジに出、リッジに跨ってM月さんをジッフェル.
ここでやっと太陽の光に当たる事が出来た.
ツルベ式にM月さんはコルへ出る.すぐ第二岩峰になるが、完全に時間切れ.雑音の多いトランシーバで、下降
する事を伝え、二人してヤケ半分のタバコを吸いまくった.

下降は、大変、神経の疲れる仕事だった.
ジッフェルポイントが不安定なので、セカンドがスリップすると、トップまで引き込まれる.その上、ビレー用に
打ったハーケンは岩がボロボロなので余り当てに出来ない.先に下る時は、ザイルが上から来ているのでまだ
いいが、セカンドになると緊張して時間ばかり掛かる.
目と鼻の先に、のんびりと日に当たりながら文三郎道を登る人が見えるだけに、早くこのいやな下降を終えて、
平らな場所に出たい気持ちで一杯だった.
第一岩峰最後のフェースをアップザイレンする時、どうしてもボロボロの岩にロックハーケンが効かず、止む無く
最後のアイスハーケンを打ってシュリンゲを掛けた.二人続けてアップザイレンする.
第一岩峰のコルから、今朝登ってきたルンゼに向かう.ここも完全な青氷で全く気が休めない.
4ピッチ下った所で、こぶし大の落石に遭う.
ルンゼの下降を終わり、アンザイレンしたまま文三郎道へトラバース、やっとザイルを解く.
二人とも、しばらく雪の上に座り込んでボケ−と放心状態で大休止した.

氷壁の下降がこんなに厳しいものだったのかと、初めて実感した山行だった.
TOP I BACK
67.3.18